相手の話を聞く技術Part3.基礎編~専門用語だらけでも怖くない「構造化ヒアリング術」

特定のジャンルに限定することなく、幅広くインタビューをしてきた私ですが、駆け出しのころは専門用語の意味が理解できずに四苦八苦した覚えがあります。現在、インタビューワークの主戦場となっているIT業界は、それこそ日進月歩で進化を続けており、次から次へと新しい概念やサービス、それを表す未知の言葉が登場しています。今でこそ当たり前になった「ソリューション」や「プラットフォーム」「オフショア」「HRテック」など、横文字が多いのも厄介なもので、インタビューの途中で初出の言葉が出てくると、そこで思考が止まってしまい、どんなに傾聴しても正しく理解することが難しくなります。
 医療分野もそうです。往々にして、医療従事者は忙しいので、わずかな時間を縫うように、素早くインタビューを済ませなくてはなりません。最初の頃は、医療用語が頻出し、あまりにもちんぷんかんぷんで、一方的に話を聞くだけで精一杯。まるで芸能人の“囲み取材”のような内容にとどまっていました。
 企業取材も、研究所や開発部門の先進的な話になってくると、専門用語や専門知識への理解が要求されるようになります。宇宙開発やバイオ関連など、世の中の進化をリードするような研究者から、一般人でも理解できるレベルのわかりやすい話を引き出さなくてはなりません。付け刃のように、慌てて知識をつけたとしても、そういった専門家相手に対等に話をすることなどは無理なこと。相手は専門家として食べている、その道のプロですから、太刀打ちできないに決まっています。IT業界のように、進化の早い業界であれば、どんなに最新情報をキャッチアップしようと努めたところで追いつくはずもありません。エンジニアの中にも、そのように言っている人がいるのですから、文系出身の私が決して追いつけるものでもないのです。
 であるなら、どうするのか?考え抜いた挙句、たどり着いたのが、“多様な分野で勝負するゼネラルなインタビュアーを目指すのであれば、何も相手と同等の知識を得る必要はないのではないか”という悟りです。話を引き出せるだけの知識さえ持っていればいいと。もっと言えば、相手が話してくれる内容の概略を掴んで、的確な質問ができる程度に理解をすれば良いのではないかと考えました。先に述べたように、目指すのは相手が気持ちよく話ができるスイッチを押す装置と化することです。私たちが正しく理解するべきは専門性の高い言葉ではなく、人の考え方にフォーカスして、話の構造を読み解けば良いのだと考えました。
 専門用語がわからないのに、相手の話を理解できるのか?もちろん、できます。極端に言えば、中学時代に習った英語の文型、S(主語)、V(動詞)、O(目的語)、C(補語)の4要素を抑えながら、相手の話を全体掌握して、類推しながら聞いていけば、どんな最新テクノロジーだって、宇宙開発の話だって、細かいことは別として、何となく相手が言わんとしていることの大筋がわかるようになります。例えば「新しいソリューションが(S)、建設業界の人手不足を解決するために(O)、国と大手建築業界がジョインして(C)、新しい採用システムを開発した(V)」くらいの大筋を把握して、そこに細かい要素を補完して文章を完成させるイメージです。話の大筋を意識しながら聞いて、未知の言葉=論理の抜けを埋めていくような感覚です。とにかく未知の専門用語が登場してきた時に、そこにこだわりすぎて思考をストップさせるのではなく、話の筋道の中でその意味を類推しながらヒアリングを進めることが重要です。

 わかりやすい例をいくつか示しながら説明しましょう。もっともわかりやすいのはIT業界における事例です。基本的な考え方としては、サーバーや仮想デバイス、ソリューションの機能的な中身は知らなくても良いのですが、それを導入することによってビジネスがどう変わるかを知ればいい。それが大枠の捉え方です。そして言葉自体に惑わされずに、言葉の意味をというよりも、その文脈の概略を理解すれば、その未知の専門用語がどういうものなのかを類推することが可能です。
 例えば、今でこそ当たり前になった「クラウド」という言葉を初めて聞いた時に、それはアプリなのか仕組みなのか、それとも手法なのかよくわかりませんでした。話を聞いていくと、比較対照して用いられる言葉にオンプレというのがある。それはどうやら社内においてあるサーバーのことで、そこに置いていたデータを、クラウドに移行するという。クラウド=雲だから、どこから誰が見上げても確認できる、共有の大きなサーバーみたいなのかなと仮定しました。話を聞き続けていると、これまでのアプリケーションは、ダウンロードして、自分のPC上で稼働させていたのが、クラウド上のアプリをSaaSで…みたいな話になって、SaaSはよくわからないが、どうやらクラウドの仮定は正しいことがわかります。取材を終了してから、後で調べてみるとSaaSの意味も分かって、話のつじつまが全部合いました。
 リモートの時代になってメリットを感じたのが、ヒアリングの最中でもインターネットで専門用語を調べることができるという点です。多くの場合、話し相手がプレゼン資料を用意して話してくれるので、横目でその資料を見ながら、わからない用語をすばやく検索して理解できるというのは、対面コミュニケーションではなかなかできない利点のひとつです。もちろん、取材前に出てきそうな言葉を調べておくべきなのは理解していますが、正直言って「SaaS」や「CRM」「セールスフォース」などの横文字群は、すぐに内容まで覚えることは難しく、取材を重ねながら言葉と意味をリンクさせることで、ようやく最近身に着いてきたように感じます。

 未知の専門用語の類推には、さらに言葉の分類が有効です。あるエンジニア集団の取材をしたときに、このような話がありました。
「ウォーターフォールではなく、アジャイル…、具体的にはスクラムでスピーディに開発を進めた。そのためにAWSに強いメンバーを投入しようと考えた」
 先進的な事例だったので、最初に聞いた時には、まったくちんぷんかんぷんでしたが、この中でまず、知っている言葉と知らない言葉に分類し、さらにそれが手法なのか固有名詞なのか、プログラム言語なのか、ソフトなのかハードなのかを類推していきます。“スピーディに開発”という表現は理解できますから、そのために“スクラム”が有効だと。“スクラム”はソリューションなのか?とも思ったのですが、メンバーを投入するという言葉から、それは手法かそれとも、単純にラグビーのスクラムのようにチームでがっちり開発を進めることではないかと類推しました。さらにAWSはどうやら固有名詞っぽく、クラウドの名称なのだとわかってきます。エンジニア単体ではなく、集団にインタビューをしているという前提から考え、さらに話を聞き続けていると、どうやらその類推は正しいことがわかってきます。
 もちろん、わからない言葉があったら勇気をもって、恥ずかしがらずにその場で聞くという手もあります。しかし、あまりにも専門用語が頻出しすぎて、そのたびに話の腰を折ってしまうのは忍びなく、やはり限られた時間でコミュニケーションを図らざるを得ないという状況を考えると、話の大筋を掴んで70%ほど理解して、会話を進めるほうが有効な
ように思えます。

 専門用語のカテゴリ分類は、経験を重ねていけば可能となります。例えば医療分野においても、病名なのか治療なのか、薬なのか機器なのかはわかるはずですし、そこだけ押さえておけば、話の大筋は理解できます。例えば、難病の治療について、医療的なメカニズムまではわからなくても、例えばこの治療法は、薬物療法なのかオペが有効なのか。治療薬だったら、今までなかった画期的なものなのか、人間のカラダで免疫性を高めるものなの、患部に直接アタックするのか。自分が理解できる平易な言葉に置き換えながら聞くことで、わかってくることがあります。
 可能であれば、自分の理解が正しいのか、一回一回確認するといいですね。その話はこういう理解で正しいですかと。先生が言っている難しい話を自分の知っている言葉に置き換えて聞いて、それを言語化し先生に「正しいですか?」と確認します。そんなことを繰り返していけば、難しい医療の話でも正しく理解することができます。

 もちろん、医療そのものに詳しくなくても、一般的なニュースになっている程度の知識はつけておいた方が良いですね。例えば、日本で薬の開発はすごく時間がかかるから、薬が高いのはこういう開発費がのっているんだよね、とか。それがジェネリックになると、開発費の負担が少ないから安くなる。けれども、なんとなくジェネリックを嫌がるお年寄りがいるとか、そんな一般的な話を頭の中に入れておくだけで、全体像の理解には役立ちます。要するにスペシャルな知識ではなく、ゼネラルな知識で良いということです。先の例でいえば、話のテーマは薬であってもそれだけでなく、行政や一般の消費者の心理など、そういった周辺情報や状況をなんとなく自分なりに整理しておくとよいでしょう。専門用語を類推し、その立ち位置や周囲への影響度を把握することで話の輪郭を掌握することができるし、気の利いた受け答えができるようになります。