対話の解体新書#007:ITコンサルタント(男性2名)との対話構造
対話の解体新書#007:ITコンサルタント(男性2名)との対話構造——便利な「ビジネス横文字」の防衛線を突破し、泥泥の現場で掴んだ「システム刷新の真実」を協働生成するロードマップ
【インタビュー概要】
本対話の対象者は、企業のDXや大規模な基幹システム刷新の最前線で指揮を執る、精鋭ITコンサルタントの男性2名です。
彼らのように、日頃から論理思考(ロジカルシンキング)を叩き込まれ、フレームワークに則った思考を得意とする専門家をインタビュー・取材する際、極めて深刻な落とし穴があります。それは、普通に質問を重ねるだけだと「ソリューション」「アジャイル」「コミット」といった、耳ざわりの良い便利なビジネス横文字(抽象論)の防衛線に終始してしまうことです。これでは、一見スマートな記事にはなっても、読者が真に実務レベルで求めている「泥泥の現場でのコンフリクト(衝突)や、それをどう泥臭く乗り越えたのかという生々しい試行錯誤」にはたどり着けません。
今回のインタビューで私が徹底したのは、彼らがプロフェッショナルとしての防衛のために無意識に張り巡らせている「ロジックの壁」を優しく棚卸しし、現場の最前線で戦う人間としての「手触り感のある一次情報」を語ってもらうことでした。
男性2名という座談会形式の特性を活かし、お互いの知性を最大級にリスペクトしながらも、真ん中にサッカーボールを置くようにランダムにパスを回すことで、スタンプラリー的なQ&Aを「熱量溢れるライブセッション(対話)」へと昇華させていきました。
結果として、最初はスマートな「公式見解」を語っていた2人が、途中からは「本当はあの要件定義の時、クライアントと激しくぶつかって胃が痛かった」「仕組みを変える以上に、そこで働く人間の『感情』を動かすことこそが本質だった」という、至高の現場知(リアルエピソード)を次々と剥き出しで語り始めてくれました。本稿では、便利な横文字の殻を破り、専門家の脳内の箱を優しくこじ開けた対話のステップを分かりやすく解き明かします。
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本対話の全貌と、一字一句の意図を解体した「注釈付き完全ログ」はnoteで公開しています。専門用語に隠された「論理の穴」を見逃さずに具体化するタイミングや、複数人の熱量を倍増させるパス回しのバリエーションなど、ログと本分析をあわせて読むことで、日常のプロジェクトミーティングやエンジニアとの意思決定の場にもそのまま活かせる対話のコツが手に入ります。
▶︎ [#007 注釈付き完全ログレポート(noteへ移動)]
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【解説】明日からの現場で使えるコミュニケーションの技術
1.横文字の殻を破る「定義の掌握」:あいまいな言葉を逃さず、手触り感のあるファクトを引き出す
コンサルタントやエンジニアといった専門職ほど、インタビューの冒頭では「他社にない付加価値」「画期的なソリューション」といった便利な業界用語を使いがちです。ここで「なるほど、ソリューションですね」と分かった気になってスルーしてしまうのが、初心者が一番陥りやすい失敗です。
私は今回、彼らが「付加価値」という抽象的な言葉を口にした瞬間、すかさず「〇〇さんが今おっしゃった『付加価値』、あるいは『ソリューション』とは、今回のプロジェクトにおいて具体的に現場のどのシステム改修や運用の変化を指しているのか、正しく把握したいのでぜひ詳しく教えていただけますか?」という、言葉の定義を棚卸しする質問を投げました。
このアプローチの一番の狙いは、相手を追いつめることではなく、「私はあなたの表面的な言葉遣いではなく、その裏側にある本質的な功績を正しく理解したい」という強いスタンスを提示することです。あいまいなビジネス用語の定義をその場ではっきりさせることで、対話は一気に浮ついた一般論を離れ、「当時はまだインターネットが普及していない時代で……」といった、周辺環境の掌握(ものさし)を伴う深掘りした具体的エピソードへと着地していきます。
2.座談会をライブに変える「サッカーボールのパス回し」:面接官ではなく、現場のディレクターになる
複数人の取材(座談会)において、インタビューに慣れていない人ほど、一問一答の「Q&A」スタイルで、1人ずつ順番に質問を消化していくスタンプラリーに陥ってしまいます。これをやってしまうと、場は冷え切り、相手は事前に準備してきた無難な回答しか話さなくなります。
そこで私は、発言しているプレイヤーだけでなく、もう1人の「表情やうなずき」を常時観察するディレクター目線を徹底しました。コンサルタントA氏が現場の苦労をロジカルに語っているとき、隣で深くうなずいたB氏の動きを見逃さず、「今、Aさんが現場でのコンフリクトを語られたとき、Bさんがお隣で激しくうなずいていらっしゃいました。Bさんの現場でも、やはり同じようなボトルネックに直面した瞬間があったのですか?」と、真ん中にサッカーボールを転がすようにランダムにパスを振りました。
この確率論的な介入を行うことで、インタビュアーを介さない「プロ同士のハイレベルなアドリブの壁打ち(対話)」がその場に自然発生します。お互いの知性が刺激し合うことで、対話の熱量は何倍にも跳ね上がり、1人では思い出せなかった生々しい現場知が次々と引き出されていくようになります。
3.「二刀流の目線」で専門知を翻訳する:読者目線とプロ目線の反復横跳び
専門性の高いITコンサルタントの対話を良質なコンテンツに仕上げるためには、聞き手が「読者の立場」と「インタビュイーの立場」を交互に、何度も高速で行き来する脳内操作が不可欠です。
コンサルタントの専門性に終始して話を聞いてしまうと、内輪だけしか理解できない退屈な「提灯記事」になり、逆に一般の読者目線だけで表面的な数字ばかりを刈り取ろうとすると、どこにでもある安っぽくて中身のない「素人っぽいWEB記事」に成り下がります。
本セッションで私は、彼らが高度なシステム論を熱弁した直後に、「一般のユーザーや現場の社員から見ると、そのシステムの複雑さや変化というのは、最初どのように映る(誤解される)ものなのでしょうか?」という、あえて一般人代表としての素朴な視点(読者目線)の質問をハメ込みました。質問の仕方を工夫し、プロのロジックに100%共感しながらも、読者の視点で鋭く突っ込む。この「二刀流」を往復させることで、第三者がストレスなく物語に没入でき、かつビジネスの深い学びが得られる「良質な融合」を達成することができるのです。
4.傷跡をギフトに変えるリフレーミング:現場の泥臭い格闘を、普遍的な「大義」へ昇華する
対話の最終盤、私たちは「ITシステムの導入成功談」という狭い枠組みを完全に飛び越えて、「生成AI時代において、人間が組織で働く意味、そして変革において感情を動かすことの本質とは何か」という普遍的な高次のテーマにたどり着いていました。
私は聞き手として、「お二人がクライアントの現場で泥泥になりながら流してきた汗や、要件定義の狭間で顧客と激しくぶつかり合ってきた時間は、単なるツールの入れ替え作業などではなく、そこに働く人間の『不完全なコミュニケーション』を円滑にするための、壮大な『生き方改革』の変革プロセスだったのですね」と、彼らの泥臭い失敗や格闘の記憶を、大きくてポジティブな物語(オルタナティブ・ストーリー)へと編み直して伝えました。
2人が「まさにその通りです。僕たちが変えたかったのは仕組み以上に、人間の感情だったんだと、今ハッとさせられました」と、晴れ晴れとした表情で語ってくれたとき、対話は完璧な大団円を迎えました。優れたインタビューとは、単に過去のファクトを集めることではありません。対話を通じて、相手が自らの歩んできた軌跡に「新しい意味や価値」を発見し、自分の仕事の原点に立ち返る知的快感(カタルシス)を共有する、極めてクリエイティブなエンターテインメント空間なのです。
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知の深層を覗く:ナラティブ理論と社会構成主義から見た「プロフェッショナルの脱構築と共創」
本対話におけるコミュニケーション機序を、ナラティブ・アプローチ(物語論的接近)および社会構成主義の文脈から学術的に解体し、インタビュー行為が高度専門職(ITコンサルタント)のアイデンティティにいかなる変容をもたらすかを考察します。
1.プロフェッショナル・ドミナント・ストーリーの「脱構築(Deconstruction)」
ナラティブ理論(White & Epston, 1990)において、人間は自らを取り巻く文化や組織、社会通念によって構築された「支配的な物語(ドミナント・ストーリー)」によって自己を規定しているとされます。本対話におけるITコンサルタント2名は、「常にロジカルであり、客観的な正論を語り、スマートに課題を解決するソリューション・アーキテクト」という、強力なプロフェッショナル・ドミナント・ストーリーに強固に拘束されていました。彼らの初期の発話が硬質で、便利なビジネス横文字でコーティングされていたのは、この洗練されたナラティブを忠実に再現しようとしていたためです。
本インタビューにおける問いの設計(ビジネス用語の定義の棚卸し、周辺の掌握の提示)は、このプロフェッショナル・ドミナント・ストーリーを「脱構築」する機能を果たしました。「システムとしての正しさ」を一度括弧に入れ、現場の「実存的な人間関係(コンフリクトや痛みの記憶)」を誘発することによって、ロジックの隙間に埋もれていた「例外的な結果(Unique Outcomes)」、すなわち、スマートさの裏側にあった激しい胃の痛みや、顧客と感情的にぶつかり合った泥泥のプラクティスの記憶が掘り起こされたのです。
2.オルタナティブ・ストーリーの「協働生成(Co-construction)」
本対話の学術的な核心は、脱構築の先にある「代替物語(オルタナティブ・ストーリー)」の立ち上げにあります。ナラティブ・アプローチにおいて、インタビューは対象者の内部にある既製の記憶を単に引き出す行為ではありません。インタビュアーの投じる「心地よい仮説のボール」と、対象者の「語り」の動的な相互作用(Interaction)によって、その場に新しい意味がリアルタイムに「協働生成」されるプロセスです。
聞き手が、彼らの個人的な格闘や現場での泥臭い失敗談を「二重言語(技術の言語と人間の感情の言語)」によって媒介し、それらを「人間の不完全なコミュニケーションを円滑にするための変革の旅」という高次のナラティブへと編み直したプロセスは、ケネス・ゲルゲン(Gergen, 1999)の言う「関係的充足(Relational Leading)」の実践そのものです。対話を通じて、対象者は「システムを納品するベンダー」という限定的な認知を離れ、「働く人間の感情を救うオルタナティブな物語の主人公」へとアイデンティティを再構成されたのです。語り手は、語る行為そのものを通じて、自らの仕事の社会的価値を再定義していくのです。
3.質的調査・組織開発への示唆:ナラティブ研究者への協業アプローチ
多くの質的調査や組織エスノグラフィーにおいて、調査者が直面するのは「対象者が綺麗に構造化された、事前の公式見解や社会的望ましさに沿ったエピソード(客観的なファクト)しか語らない」という問題です。しかし、本プロジェクトが実践する「対話の解体新書」のアプローチは、インタビューの場を、既存の組織ナラティブが解体され、新たなオルタナティブ・ストーリーが立ち上がる「臨床的な実験室」へと変貌させます。
対象者がインタビュアーとの相互作用のなかで、リアルタイムに自らのスキーマを書き換え、未来の行動変容や次世代へのコミットメントへと向かうこの動態的な機序は、ナラティブ・アプローチを単なる「過去の記録法」から「組織開発および高度専門職のアイデンティティ変容を促す動的な触媒」へと拡張する可能性を秘めています。現場の生の語り(Micro-narrative)から組織構造や文化の変革を試みるナラティブ研究者、あるいは質的心理学の境界線を押し広げようとする専門家に対し、本プロジェクトは極めて強力な「実践的・臨床的メソッド」のエビデンスを提供するものです。
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【産学連携・共同研究のご案内】 本プロジェクトでは、ナラティブ理論、社会構成主義、臨床心理学の観点から、対話が高度専門職のアイデンティティ変容や組織開発に与える影響を科学的に解明する共同研究を推進しています。特に企業組織におけるナラティブ・インタビューの実践的研究、質的調査を行う専門家との協業を歓迎いたします。



