対話の解体新書#006:大手人材グループのリーダーとの対話構造
対話の解体新書#006:大手人材グループのリーダーとの対話構造——「会社の建前」を話す相手の心のブレーキを外し、仕事への「本当の想い」を引き出すロードマップ
【インタビュー概要】
本対話の対象者は、変化の激しい人材業界の第一線で、多くの部下を抱えながらプロジェクトを引っ張る、大手人材グループ・ホールディングスの女性リーダーです。
彼女のように、普段から社内外での「見られ方」を意識している優秀なリーダーをインタビューする際、よくある落とし穴があります。それは、普通に質問するだけだと「会社として正しい、お手本のような優等生の回答」ばかりが返ってきてしまうことです。これでは、聞いていて参考にはなっても、読者の心を本当に動かすような「リアルな苦悩や、それを乗り越えた生々しいストーリー」にはたどり着けません。
今回のインタビューで私が心がけたのは、彼女が周囲の期待に応えるために無意識にかけている「心のブレーキ」を優しく外し、一人のビジネスパーソンとしての「等身大の本音」で語ってもらうことでした。 「優秀なリーダー」という役割の仮面をそっと横に置いてもらい、彼女が本当に大切にしている仕事への価値観や、チームを率いる中でのリアルな迷いにスポットライトを当てるため、まずは彼女のこれまでの実績を100%リスペクトすることからスタートしました。
結果として、最初は「組織としての成果」をスマートに語っていた彼女が、途中からは「本当はあの時、怖くて仕方がなかった」「泥臭く部下と向き合った時間が、自分を育ててくれた」という、涙が出るほど熱い、人間味あふれるエピソードを次々と語り始めてくれました。本稿では、相手のガードを自然に解き、仕事への本当のエネルギーを引き出した、明日から誰でも使える対話のステップを分かりやすく解き明かします。
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本対話の全貌と、一字一句の意図を解体した「注釈付き完全ログ」はnoteで公開しています。相手の言葉のちょっとした「言い淀み」を見逃さずに優しく深掘りするタイミングや、本音を引き出す質問のバリエーションなど、ログと本分析をあわせて読むことで、日常の1on1や部下育成にもそのまま活かせる対話のコツが手に入ります。 ▶︎ [#006 注釈付き完全ログレポート(noteへ移動)]
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【解説】明日からの現場で使えるコミュニケーションの技術
1.最高のパスを出す:事前の徹底的な準備で、相手の「話すスイッチ」を入れる
仕事ができる優秀な人ほど、インタビューやミーティングの冒頭では「相手がどれくらい自分のことを理解してくれているか」を冷静に見極めています。ここで「最近のお仕事の調子はどうですか?」といった、誰にでも使い回せるような薄い質問をしてしまうと、相手は一気にマニュアル通りの「お仕事モード」になってしまいます。 私は今回、彼女がこれまでに社内報やインタビューで語ってきた過去の発言、担当してきた大規模プロジェクトの推移をすべて頭に叩き込んだ上で、対話の最初に「〇〇さん、3年前のあの新規事業立ち上げの際、普通なら諦めてしまうようなタフな状況の中で、あえてチームの解散を選ばずに全員でやり切る決断をされましたよね。あの時の〇〇さんの『踏ん張り』が、今の御社の組織文化のベースを作っているように感じるのですが、いかがですか?」という、ピンポイントで具体的な事実に基づいた質問を投げました。
このアプローチの一番の狙いは、単なる「調べ学習の自慢」ではなく、「私はあなたのこれまでの努力や、目に見えないこだわりをちゃんと見ていますよ」という強いメッセージを伝えることです。これを「認知的承認」と呼びます。自分を正しく理解してくれる人に対して、人間は「この人になら、普段は見せない裏側の話もして大丈夫だな」と安心するものです。この最初の1問で、彼女の「話すスイッチ」がカチッと入り、ありきたりな会社案内のレベルを超えた、一歩深い対話がスタートしました。
2.主語を「会社」から「自分」に変える:役割の仮面を外してもらうシンプルな魔法
対話が中盤に入っても、真面目で優秀な人ほど「私たちのチームの方針としては……」「グループ全体の戦略として……」というように、主語を「会社」や「組織」にしたまま話しがちです。これはビジネスパーソンとして正しい姿勢ですが、こればかりだと、語り手の「人間らしさ」が伝わってきません。読者が本当に読みたいのは、組織の戦略そのものよりも、その戦略の裏側でリーダーが何を思い、どう決断したかという「個人」のストーリーです。
そこで私は、彼女が組織の成功法則を綺麗に語ってくれた直後に、「チームとしての素晴らしい成果はよく分かりました。では、その大きな決断を下したまさにその瞬間、〇〇さん『個人』の胸の中には、どんな気持ちが渦巻いていたのでしょうか? 正直、怖さや迷いはありませんでしたか?」というように、主語を「組織」から「あなた自身」へと切り替える質問を投げました。
この質問は、相手にかかっている「優等生リーダー」という呪縛をフッと解く効果があります。主語を会社から「自分」に戻された彼女は、少し驚いたように小さく沈黙した後、「……実は、メンバーの前では平気な顔をしていましたけれど、毎晩不安で押しつぶされそうでした」と、誰も見ていないところでの本当の葛藤を話し始めてくれました。このように、主語を「組織(It)」から「私(I)」へと引き戻すだけで、対話の深さは何倍にも増していきます。マネジメントにおける部下の1on1でも、主語を「会社」から「君自身」に変えてあげるだけで、メンバーの本音が一気に溢れ出すようになります。
3.言い淀みやため息をキャッチする:言葉の「端切れ」に眠る宝物を掘り起こす
人が建前を捨てて、本当に伝えたかった本音を話し始めるとき、言葉のトーンが急に変わったり、少し口ごもったり、フッとため息をついたりする瞬間が必ずあります。私たちは普段の会話で、そうした相手の「言い淀み」をスルーしてしまいがちですが、実はその小さな揺らぎの中にこそ、相手が一番語りたかった「本当のドラマ」が眠っています。
インタビューの中で、彼女が「部下との接し方を変えてからは、関係もスムーズになりました。ただ……、最初は本当にこれでいいのか分からなくて……」と言葉を濁した瞬間、私は次の質問を焦って投げずに、「今、〇〇さんが『ただ……』と言いかけた後に、頭の中にフッと浮かんだあの時のもどかしい景色を、そのまま言葉にしてみていただけますか?」と優しく促しました。
この「微細な追跡(マイクロ・トラッキング)」を行うことで、彼女は「スムーズになった」という綺麗な結果だけでなく、そこに至るまでに部下とぶつかり合い、涙を流した泥臭いエピソードを思い出し、語る決意をしてくれました。相手の言葉が綺麗にまとまりすぎている時ほど、ちょっとした「でも……」「ただ……」という言葉の端切れを見逃さないこと。そこに優しくスポットライトを当てることで、対話の解像度は一気に上がり、他のどこにもない唯一無二の記事が生まれます。
4.点と点を繋いで「大義」にする:個人的な経験を、みんなの「勇気」に変える総括
対話の最後、私たちは「優秀な女性リーダーの成功体験」という狭い枠を完全に飛び越えて、「これからの時代に、人と組織が本当に幸せに成長していくためのチームづくりとは何か」という、大きなテーマにたどり着いていました。 私は聞き手として、「〇〇さんがこれまで現場で流してきた涙や、部下の方々と泥臭く向き合ってきた時間は、単なる一過性の苦労話ではなく、御社がこれからの多様性の時代を生き抜くための、新しいリーダーシップの形を自ら証明する『開拓の旅』だったのですね」と、彼女の経験を大きくてポジティブな物語へと編み直して伝えました。
彼女が「その通りかもしれません。私が悩んできたプロセスそのものが、次の世代の女性リーダーたちの道標になれば嬉しいです」と、晴れやかな笑顔で語ってくれたとき、対話は最高のゴールを迎えました。 優れたインタビューやミーティングとは、単に過去の情報を集めることではありません。対話を通じて、相手が自分の歩んできた道に「新しい意味や価値」を発見し、明日からの仕事に対して「よし、またここから頑張ろう!」と思える前向きなエネルギー(大義)を一緒に生み出すクリエイティブな作業なのです。
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知の深層を覗く:ナラティブ理論と臨床心理学から見た「語りの変容と協働生成」
本対話におけるコミュニケーション機序を、ナラティブ・アプローチ(物語論的接近)および社会構成主義の文脈から学術的に解体し、インタビュー行為が対象者のアイデンティティと組織間ダイナミクスにいかなる変容をもたらすかを考察します。
1.組織的ドミナント・ストーリーの「脱構築(Deconstruction)」
ナラティブ理論(White & Epston, 1990)において、人間は自らを取り巻く文化や組織、社会通念によって構築された「支配的な物語(ドミナント・ストーリー)」によって自己を規定しているとされます。本対話における大手人材グループの女性リーダーは、「常にポジティブで、論理的であり、組織の模範となるマネージャー」という、強力なジェンダーおよび組織的ドミナント・ストーリーに強固に拘束されていました。彼女の初期の発話が硬質で洗練されていたのは、この客観的かつプロフェッショナルなナラティブを忠実に再現しようとしていたためです。
本インタビューにおける問いの設計は、この組織的ドミナント・ストーリーを「脱構築」する機能を果たしました。「組織としての正しさ」を一度括弧に入れ、個人の「実存的な問い(内省)」を誘発することによって、システムの隙間に埋もれていた「例外的な結果(Unique Outcomes)」、すなわち、強さの裏側にあった不安や、マニュアルを逸脱して部下と感情的にぶつかり合った泥臭いプラクティスの記憶が掘り起こされたのです。 対象者から出た「毎晩不安で押しつぶされそうだった」という語りは、まさにドミナント・ストーリーの防壁が崩れ、個人の実存的なナラティブが立ち上がった劇的な瞬間(脱構築の成立)を示しています。
2.オルタナティブ・ストーリーの「協働生成(Co-construction)」
本対話の学術的な核心は、脱構築の先にある「代替物語(オルタナティブ・ストーリー)」の立ち上げにあります。ナラティブ・アプローチにおいて、インタビューは対象者の内部にある既製の記憶を単に引き出す行為ではありません。インタビュアーの投じる「問い」と、対象者の「語り」の動的な相互作用(Interaction)によって、その場に新しい意味がリアルタイムに「協働生成」されるプロセスです。
聞き手が、彼女の個人的な苦悩や現場での葛藤を「二重言語(組織の言語と個人の実存の言語)」によって媒介し、それらを「多様性時代における新たなリーダーシップの開拓の旅」という高次のナラティブへと編み直したプロセスは、ケネス・ゲルゲン(Gergen, 1999)の言う「関係的充足(Relational Leading)」の実践そのものです。 対話を通じて、対象者は「会社から与えられた役割をこなすマネージャー」という限定的な認知を離れ、「次の世代の道標となるオルタナティブな物語の主人公」へとアイデンティティを再構成されたのです。語り手は、語る行為そのものを通じて、自身のキャリアの社会的価値を再定義していくのです。
3.臨床的・実践的インタビューへの示唆:ナラティブ研究者への協業アプローチ
多くの質的調査や組織エスノグラフィーにおいて、調査者が直面するのは「対象者が綺麗に構造化された、事前の公式見解や社会的望ましさに沿ったエピソードしか語らない」という問題です。しかし、本プロジェクトが実践する「対話の解体新書」のアプローチは、インタビューの場を、既存の組織ナラティブが解体され、新たなオルタナティブ・ストーリーが立ち上がる「臨床的な実験室」へと変貌させます。
対象者がインタビュアーとの相互作用のなかで、リアルタイムに自らのスキーマを書き換え、未来の行動変容や次世代へのコミットメントへと向かうこの動態的な機序は、ナラティブ・アプローチを単なる「過去の記録法」から「組織開発およびリーダーのアイデンティティ変容を促す動的な触媒」へと拡張する可能性を秘めています。 現場の生の語り(Micro-narrative)から組織構造や文化の変革を試みるナラティブ研究者、あるいは質的心理学の境界線を押し広げようとする専門家に対し、本プロジェクトは極めて強力な「実践的・臨床的メソッド」のエビデンスを提供するものです。
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【産学連携・共同研究のご案内】 本プロジェクトでは、ナラティブ理論、社会構成主義、臨床心理学の観点から、対話がリーダーのアイデンティティ変容や組織開発に与える影響を科学的に解明する共同研究を推進しています。特に企業組織におけるナラティブ・インタビューの実践的研究、質的調査を行う専門家との協業を歓迎いたします。
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